「団長、3つ目の話、聞きました?こいつ、我々が思っている以上に、すごい才能をもっているのかも知れませんよ」

「そうだよな。うん。一回、本番で跳ばせてみようか」

 パパさんたちが私の事を見ながらそういった。

カクマクマ第9話 カクマクマ、跳ぶ(前編)
第9話 カクマクマ、跳ぶ(後編)

「すんげーよカクマクマ、どうやら、本番で使ってもらえるらしいよ」

「大した事ではないと思います。ただ、跳ぶだけでしょう。ボールに乗る方が数倍すごいですよ」

「そんな事言うとドンティに失礼だ。あいつはこれをずっと続けてるんだぞ」

 私は何も返さず夜になるのを待った。
だんだんと空が赤く染まり、サーカスのテントの奥から人間たちの声が聞こえた。しばらくする。私は檻から出された。シェリーやシャムラ、ドンティも出された。
 
 シャムラの曲芸が終わり、ドンティと私はパパさんに連れられ、舞台にあがった。眩しい光のその先に、茫々と燃えているものがあった。

 ドンティが立ち上がり、炎へ向かって走った。私は目を疑った。彼はそのまま火の中へ疾走し、跳んだ。そして、そのままぐるりと周って帰ってきた。

「次、取りあえず跳んでみな」
 
「えっ?何の事ですか?さっきの輪はどこにあるのですか?」

「何言ってんだ取りあえず、俺が今跳んだやつがそうなんだよ」

「あれを跳ぶんですか。冗談ですよね」

「冗談だったらさっき俺が跳んだのは何なんだ!」

 パパさんの棒が私の尻に当たった。前に進めの合図だ。私は戸惑いを隠せなかった。心臓の鼓動が地面を揺らせた。ドンティが大声で怒鳴った。

「おおおおう!取りあえず跳んでみな!」

 その声が会場に響くやいなや、人間たちの叫び声や手を打つ音で会場が爆発した。私の鼓動はかき消された。また、パパさんが棒で私の尻を叩いた。

 跳ぶしかない。

 炎だった。炎しかなかった。目が熱気で痛い。パパさんが棒で私の尻を打った。躊躇する私を容赦なく炎の元へ誘導する。

 ドンティが大きな目でこっちを見ていた。

カクマクマ、跳ぶ

 跳ぶしかない。
 さっきドンティが歩いた道筋をなぞり、私は加速をつけた。熱気が強くなってゆく、目を閉じた。さらに強い熱気を毛先と毛先の間の肌から感じた。

 私は炎を跳んでくぐった。

 地面に。人間の声が聴こえる。四方八方から、煩わしい程の大きな音が聞こえた。どうやら成功したらしい。

「おおおおう!やりやがった」

 舞台から檻に戻された。その後、私のもとにだけ鮭が置かれた。

 サーカス。ここは私の性にあっているのかも知れない。

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