スポットライトに照らされる中、前足を使ってボールをシェリーのところまで持って行く。 「カクマクマ、これやっと人間さまにウケっから、やってみー」  シェリーは、左片手を上げ、左右に振った。人間たちの笑い声が聞こえる。

カクマクマ第9話 カクマクマ、跳ぶ(前編)
第9話 カクマクマ、跳ぶ(前編)

「さぁ、やってみー」

 私も手を振った。鼓膜が破れるくらいの人間たちの笑い声や手を叩く音が、サーカスに響いた。一体、何がそんなにうれしいんだろう。

 サーカスが終わり、私たちはテントに移された。人間がご飯を持って来た。シェリーは彼らの事を「パパさん」と呼んでいた。

「団長、この三つ目、すごいんじゃないですか?」

「そうだな。初日でここまで客を沸かせるとはな。おう、三つ目、がんばれよ」

 そう言ってパパたちは、棒で私の檻を叩き、餌を檻の中へ入れた。サーカスに入れば、鮭ばかり食べれるものだと思っていたが、実際はほとんど動物園の餌と変わらなかった。パサパサした、香ばしい茶色い粒。シェリーの話では鮭が出てくるのはごくまれらしい。
 
 隣の檻のシェリーと目が合った。

 「シェリーさん。人間っておかしな奴らですね。私は前からそう思って・・」
 
 「こら、人間さまの事は悪く言っちゃいいけねーぞ。人間さまはエレーんだ。だから、あんまり機嫌を悪くさせちゃ、エレー目にあうぞ」


「はぁ、どうも申し訳ない」
 
「おうおう、気にするな、カクマクマ。こいつらの方がおかしーぜ!ぜ!」

 マギーだ。シャムラを連れてきて以来、彼はサーカスの一団と行動を一部共にしているものの、サーカスには入らずに相変わらず野良を続けている。昼間は何をしているのか、夜になると決まって餌をせびりに来る。

 サーカスの檻の鉄の棒の幅は広く、マギーは尻尾を振りながらその間から私の檻に入った。私の餌を見ながら彼は大声で言った。

「こいつらな、生まれた時からこうやって人間の餌をもらってんだ。だから、奴らを親みたいに思って。勘違いしてんのさ。“人間さま“には逆らえねーんだろ、ったくネコみたいに情けネー。おうおう!」

「あんらまーなんて失礼な事言うんだ。あたすは怒ったどー」

「おうおうおう!ぬるま湯で育ったくせして生いってんじゃねーよ」

 マギーはシェリーに向かって大袈裟に吠えた。
 
「そんな事言ったら、動物園で育った私も同じだ。失礼だぞ」

「んあー、おもしろくねぇ!!アンテイか?アンテイか?おうおうおう!やってらんねー。シャムラ、シャムラー!!」

 そう言うと、尻尾を振ってシャムラが繋がれた所へ駆けて行った。どうやらシャムラもマギーに餌をせびられているらしい。
 
「野良っころは卑しくて嫌いだ。ところであんた、動物園に住んでたの?」

「ええ。沖縄時代はこどもの国といわれる動物園に住んでいました」

「へー、あたいも生まれは動物園なんだよ。長老からそう聞いたんだ」

「長老?」

「あ、そうか、あんたまだ長老に紹介してなかったねー。ここで一番の古株なの。猿でさ、昔は看板スターだったらしいんけど、今は引退して、ご隠居してる」

「ご隠居?」

「あんた、ご隠居知らねーの?引退したら、みんなご隠居になるんだよー。パパさんがそう言ってたのを聞いた事がある」

 サーカスにはシェリーやシャムラの他にもう一人仲間がいる。ライオンのドンティだ。

 「まー取りあえず、跳んでみろよって言いたいよね、俺は」

 ドンティはおしゃべりだ。今朝も檻越しから私に話しかけてきた。茶色く長い毛と大きく見開いた目、迫力のある容姿。彼を見ていると、つくづく私は生まれ変わったらライオンになりたいと思う。

「取りあえず最初は誰も跳べないんだよね、怖くてさ。あんたもそうだろう?」

「失礼ですが、何の話ですか?」

「あれだよ、あれ」

 ドンティの視線の先に輪があった。どうやらあれの間をくぐり抜ける事を言っているらしい。

「俺も最初は怖かったんだけどさー。一発跳んだら癖になったね。取りあえずあんたも今度、跳んでみなよ」

「そうですか。ぜひ一度跳ばせて下さい。」

すると、ドンティは目の色を変えた。
 
「ほー、じゃあ後から取りあえず跳ばさせてやるよ。」

 しばらくすると、パパたちが来た。練習の時間だ。檻から出された私は、棒で指示するパパたちを無視して、ドンティさんの檻へ足を進めた。

「ドンティさん、跳んでみてもいいですか?」

 彼は驚いた様子だった。社交辞令で跳びたいと言ったヤツは今までもいたが、実際に跳ぼうとするヤツなんてめったにいない。

「取りあえず、やってみな。おおうヤベー、パパさんが怒ってるぞ、取りあえず早く跳びな」

 私は走った。輪は、思ったよりも高い所にあったが私は跳んでくぐり抜けた。脇腹のあたりが鉄の棒に振れた。

「跳びやがった!おおおう!取りあえずスゲーよ」

 テントの中が静寂に包まれた。みんなが言う程、大した事ではないように思えた。練習が終わり、私は檻に戻された。

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