ギラギラした黒目の小さな猫だ。灰色の毛は薄汚れて、背骨に沿って逆立っている。猫の傍に落ちている、チキンの骨を狙っているとでも思っているのだろうか。猫を見て、マギーの頭の中が反射的に熱くなったが、無視する事に決めた。
猫なんかの相手をして、命を危機に晒すようなバカなミーではない。目線を逸らした。

マギーと対峙している野良猫のニャンシーは必死だった。一晩中、店から出てくる人間たちの足にまとわり付いて、やっと手に入れたマトモなご飯、大好きなチキン。
小さい頃は、なんにもしなくても、目が合っただけで、ご飯を貰えた。だが、大きくなった今は違う。こちらが動かないと何も貰えない。
店から出てくる人間。ニャンシーはその袋の中身を一瞬で、食べられる物があるか、嗅ぎ分ける。そして、近づく。タイミングは早すぎても、遅すぎてもいけない。
「にゃーん」
小さな声で近づいて、そっと、人間の行く手を遮る。雰囲気を確かめる。ここで失敗すると、蹴られたり、石や棒で殴られたり、下手をすれば命を落とす事だってある。
大丈夫なのが分かると、もう少し力を入れて、人間の足に体を擦り付ける。35秒。大抵、これ以上は危険と判断して、離れる。大抵10人に擦り寄って、やっとご飯を貰う程度の割合だ。今夜は、20人。やっとの思いで手に入れた、久しぶりのチキンだった。それをいきなり、イヌ野郎が横取りしようとしている。こういう事は何度もあった。何度も悔しい思いをしてきた。
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「しゃー、しゃー、ぶっ殺すわよ。あんたらね、ほんと、サイテーよ。だっさい、つーの。」
何て失礼な奴だ。マギーの頭の熱は、段々と温度を上げてきた。この低能で小さいだけの、下等生物め。気が付くとマギーは興奮して吠えてしまった。
「おうおう、おうおう」
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「あっ野良犬だ。」
雄二はとっさに、カクマクマの檻の傍にある首掛け棒を取った。
スーパーの駐車場で、一匹、危険な毎日を送っている不憫な野良犬を、彼は放って置くことができなかった。
マギーの首にワイヤーが掛けられた。
「キャん、イヤーー!!」
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荷台の檻を開けて雄二は気が付いた。しまった。ここに入れたら、熊に食べられるかもしれない。どうすればいいのか。どうすれば・・答えが見当たらない。首掛け棒を握り締めたまま途方に暮れた。足元に何かを感じた。下を見ると猫が鳴きながら体を擦り付けていた。
「お、おい、まとわり付くな、シッ、シッ、どっか行け。」
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バカな猫のおかげで、マギーの首のワイヤーは緩んだ。
「おうおう、カクマクマ、今だ!」
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「何してんのよ!」
洋子はドアを開け、騒いでいる雄二の所へ急いだ。檻を開けっ放しで、雄二は首掛け棒を掛けた犬に吠えられ、動揺している。猫までいる。檻の中の熊が突進して、雄二に体当たりした。青冷めた洋子は、とっさに目に入った蜂蜜を取って、熊にかけた。
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今までにない味がカクマクマの舌を光速で駆け抜けた。滑らかな舌触り、脳を丸ごと天高く飛ばすような香り。鮭とはまた違う味のこの黄金のベタベタ感。カクマクマは夢中でそれを舐めた。それを見ていた、マギーと猫も舐めだした。
蜂蜜はすぐになくなった。もっと、もっと。カクマクマは洋子を見た。
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熊に見つめられて洋子は戦慄した。思ったよりも蜂蜜はウケたようだが、このままでは危険だ。周りを見渡す。白い大きなトラックが止まっていた。何かを荷台に載せた後らしく、運転手が運転席に戻ろうとしていた。自動開閉式なのか、荷台はまだ開いていた。もうそろそろ、荷台が畳まれるのだろう。洋子は急いで、蜂蜜をそこに投げ込んだ。
熊とワイヤーを首に掛けたままの野良犬が蜂蜜を追いかけ、荷台に乗るとすぐに荷台の入り口は閉まった。トラックは走り出しす。
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辺りに静寂が戻った。 擦り寄ってきた猫を抱き上げ呆然としていると、起き上がった雄二がそばに来て言った。
「熊相手じゃあ…きっとあの犬は食べられてしまうだろうな。助けられなかったな。」
「せめて、罪滅ぼしに、この猫飼ってあげましょうよ。こんなに可愛いし。」
「俺、犬派なんだけどなぁ。」
猫を抱きかかえたまま車に乗り込み、捕獲者たちは家路についた。