港の脇に見つけたわずかな芝生の上でわたしが寝ていると、 突然の大きな怒鳴り声で目を覚ました。
街灯の光も届かない、暗闇の奥に小さな目が二つ。また怒鳴る。

「おう、おう、おう」

ここは外の世界。 少し怖くなり、取りあえず私は逃げた。

第3話 外の世界の大袈裟な奴等
第3話 外の世界の大袈裟な奴等

「おう、おう、おう」

叫びながら全速力で追いかけてくる。
寝起きだったので、すぐに追いつかれた。
叫び声の方を見た。

 茶色く細長い体、ギラギラした目、まるでオオカミ。
先だけ白い尻尾を右、左に振りながら、そいつはまた怒鳴った。

「おう、ここはミ−の縄張りだ入って来るなぉ」

「縄張り?わたしは眠っていただけだ。」

「おう、おう、おう」
 
また怒鳴ると、(ビュッ!)、小さな牙でわたしは右足を噛まれた。
 
「キャン。」

 右手でポンと払っただけなのに、そいつは大袈裟に鳴いた。
睨みつけながら後退し、 少し距離を置き、そいつはまた怒鳴った。
 
「ここはミーの縄張りなんだぞ、おう、おう、おう」

「わたしは眠っていただけだ」

  また噛み付いてきたので、軽く払うとまたギャンと叫び、今度は逃げて行った。一体何なんだ?大袈裟な奴…

(…大袈裟?)

毎晩、クマ山に遊びに来る猫から聞いた、こんな話を思い出した。

"イヌ、ってさぁ、やつらぁいるんだけどぉ、ほーんとサイテー、信じらんない。 あいつら何にでもオシッコをかけて、必要以上にーデカイ声でー、 ここはオレの縄張りだって、怒鳴ってー、あたしを見るとー異常にキレんのよ。 ダサイっつーか、なめんなよって感じ。 外の世界は結構そういう大袈裟なヤツ、多いのよねー”

(もしかして、あいつらがイヌか…)

夜中の冷え切ったアスファルトは、クマ山とは比較にならない程寒い。
わたしはもう一度、芝生へ戻った。
海で濡れた風の匂いが、昨日の鮭の味を脳裏に蘇えらせる。

( 鮭…鮭…)

おうおうおうおう、おうおうおうおう、複数の怒鳴り声が、遠くから聞こえる。
だんだん、だんだん、大きくなってくる。

「おうおうおうおう」

イヌだ。今度は3匹。
あんまり、おいしそうじゃないが、食べてやろうか。

「待ちなぅぅうー、なんてでかい野郎だ、おう」
「おう、ユーは一体、何だ。」
「わたしは・・クマだ。」
「クマ、おう、クマって何だ、おう、知らん、ん、ん」
「クマはクマだ。失礼だが、君たちはイヌか。」 
「イヌじゃねー、名前があらー、ミーはマギー、こいつがハチ助、あいつはポン太だ、だ、だ、だ」
「少しぐらい、静かに話してくれてもいいじゃないのか」
「いいぜ」
「おう」

イヌたちにいくらわたしの存在を話しても、理解してもらえない。どうやら、外の世界にはわたしのような奴はいないらしい。

「時間だ、少し待て。丁度いい。今からみんなにお前のこと、聞いてやる。」

そう言って空を見上げ、叫んだ。

「おう、おう。港のマギー、みんな、変わりないか」

四方八方からイヌの叫び声が聞えた。
マギーが、振り向きながら

「へへ、ミーたちはこうやって繋がってんのさ。」

「オレのとこん家、飯が変わった、肉なんだけど、なんか柔らかくって、うまい」
「それ、高級飯だ、ペリグリーチャムだ、いいな、いいな。」
「いいな、いいな」
「いいな、いいな」
「どうしても、外に出たいんだけど、この首輪、どうやって外せんだろう。」
「そのタイプ、思いっきり縄を棒に巻きつけて、引っ張れば抜けるよ」
「あんがとうー」
「いいな、俺も出たい」
「オラも」
「太陽が赤い時、南埠頭付近で捕獲者がいたよー、気を付けれ、明日も来るかも」
「ガッテン」
「おう」
「怖い」
「本当か」
「おうおうおう」
「今、変な奴発見。太って茶色で、でかい。知ってる奴いるか」
「オラ知らねー」
「あたいもわかんない」
「おう、知ってるぜ、おう、テレビにでてた、多分、クマ。山とかにいんだ、でっけー、おう」
「おいらも見てー」
「連れてきてー」
「おうおうオラも」
「ジュディー、今夜も眠れない。」
「あたいも・。」
「おうおうおう」
「熱いね」
「あたいもお前に会いたい、ハチ助。あっパパが起きた。」
「おうおうおうガッテン、んじゃ明日。おうおうおう」
「おうおう」
「おうう」
「おう。」


マギーは、軒下で生まれた。 
外国犬だった母親、父親は知らない。
初めて外に出た時、母親はイヌ採りに捕まった。
小さかったので、人目につくところに出るとすぐに拾われた。
最初の飼い主は、人間の子供。
1晩で、捨てられた。
その後、町をふらつき、たどり着いた人の家。
運良く、飼われ、数ヶ月。
大きくなるにつれ、だんだんと餌も減り、散歩の時、逃げ出し、今は野良犬。

「ミーが知ってる限り、人間ってやつはどうしても、アンテイしたがんのさ。あいつらの秀でた能力はそれだけだ。」

暗い港で、一緒に餌を探しながらマギーは言った。

「あいつらと同じように、布をオレに着せるんだ。アンテイを、強制させるんだ、
まっアンテイは嫌いじゃないけど、あれは異常だね。」

わたしはマギーに魚の骨を分けてもらった。
それしても、わたしの知らない言葉をよく使う。

「なーマギー、あたい、帰りテー」
「おう、」

マギーもわたしの話をよく聞いた。

「わたしの名前はカクマクマだ。しばらく、ここにいる。」
「ここはだめだ。」 
「どうしてだ。」
「縄張りだからだ。」
「んだ」
「おうおう」
「・・・」
「しょんべん、かけな」
「そうか、では、失礼…」

わたしは電信柱に小便をかけた。

「よーし、いいぜ。」
「ありがとう。」

3匹は暗闇の中へ、わたしはそれに背を向け、また一人で餌を探した。


いい匂いがする。
左側のゴミカゴからだった。
漁るが、食べられないものばかり、また、漁る。
その刹那、首に一瞬、冷たいものを感じた。

「おっしゃ!」

人間の声。
身動きが取れない。
首が締めつけられた。

「すげー、でかい犬だ。おら、見てないで手伝えよ。」
「ちょっと、待って。わ、すごい力。」

・・太陽が赤い時、南埠頭に捕獲者がいたよ・・・

しまった。
もしかすると、こいつらがそうか。
棒で押さえつけられた。
そのまま暗い箱の中へ押し込められる。
一瞬だけ、人間が2人見えた。
鉄を叩く 音が鳴り、完全な闇になった。
空気が湿った臭い。
地鳴り、そして揺れた。
冷たい鉄の地面は足場が悪く立てない。
仕方無いので、手を地面に置いて、うずくまる。
これからどうなるのだろう。
怖い。
声が聞こえた。

「それにしても、大きな犬だったわ。」
「だな。」
「クマみたい。」
「はははは。」

ずっと地面は揺れていた。

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